大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(う)1658号 判決

所論は多岐にわたるが,要するに,被告人は,原判示の日時場所において,法定の最高速度である時速40キロメートルを超える時速83キロメートルで普通貨物自動車を運転したことはない,というのであって,その論拠として,本件速度取締りに使用された速度測定機(以下「本件速度測定機」という。)については,本件のように連続して2台以上の車両が走行して来た場合における機械的な印字能力の制約等に基づく連続測定能力の限界(先行車の速度測定を完了した後に後続車の速度測定が可能になるまでに要する時間,従ってまた,連続測定可能なために必要な先行車と後続車との車間距離ないしは速度測定区間内に進入して来る時間差等)に関する正確な資料がなく,従って,本件当時先行車に引き続き被告人車が予め設定された速度測定区間内に進入した時本件速度測定機の測定準備が完了しており,誤作動を起こすことなく被告人車の速度を正確に測定したことを確認するに足りる客観的証拠は存在しないのであって,本件取締りに従事していた警察官らも前記のような本件速度測定機の連続測定能力についての正確な認識を欠いていたため,適正な測定間隔を確保するのに必要な連続して走行する車両間の車間距離ないし時間差に対する監視を怠り,先行車に引き続いて被告人車が速度測定区間内に進入した時,本件速度測定機がその速度を測定することが可能な状態になっていたかどうかを確認した形跡のないことや本件当時の被告人車と先行車との車間距離(原審証人佐久間一哲の証言によると約20メートル)等を考慮すると,被告人車は,先行車が速度測定区間を通過した後,本件速度測定機の印字不能時間内に速度測定区間内に進入したため,本件の場合に時速83キロメートルという出鱈目な数値が表示された疑いが極めて強く,また,被告人車は右速度測定区間を通過したのち,約63メートル進行した地点で既に停止する位の速度になっていたから(原審第四回公判廷における証人山口浩治の証言参照),その間被告人が急ブレーキをかけた事実はないこと等を併せ考えると,被告人車が時速83キロメートルで走行していたとは到底考えられない。(先例によると,時速81.8キロメートルで走行する普通乗用自動車がスリップ痕を残さず,横揺れ無しの状態で停止するためには,通常120ないし130メートルの距離を要するとされている。)

……中略……

先ず所論は,本件速度測定機の所謂連続測定能力に問題がある旨縷々主張するので,この点について検討してみるのに,関係証拠によると,

1. 本件速度測定機は,昭和51年10月日本無線株式会社が製造したJRC光電式車両走行速度測定装置(JMA-141D型,製造番号7429)であって,道路の両側に,送受光器と反射器(送受光器から反射器に向けて赤外線を発射し,反射器が反射した赤外線を再び送受光器で受光する。)で構成される光電式車両検出器を7メートル間隔で2台設置し,走行する車両が最初の検出器の発射している赤外線(原判示「A線」)を遮断してから二番目の検出器の発射している赤外線(原判示「B線」。A線とB線間が速度測定区間である。)を遮断するまでに要した時間を測定した上,これに基づいて当該車両の走行速度を電子計算し,延長ケーブルによって検出器とは約300メートル離して設置してある測定部本体の数字表示管に時速で表示すると同時に,プリンターにより,月,日,時刻と共に印字記録される仕組みになっていること,

2. 速度違反取締りに本件速度測定機を使用する時は,手動操作が原則であって,予め制限速度を設定した上(本件の場合には時速58キロメートルに設定し,それ以上の速度で走行する車両のみを取締りの対象としていた。),監視係の警察官において,走行して来る車両の速度を目測し,右の設定速度以上であると見た時は,選択スイッチを入れて速度測定の態勢に入り(従って,通行車両全部の速度を測定するわけではない。),当該車両が二つの光電式車両検出器の発射している赤外線を遮ることによって電子計算された走行速度が実際に右設定速度以上であった時は,前記のように測定部本体のプリンターがその時速等を記録紙に打ち出すと同時に,通話装置を通じて報知音が出て監視係,記録係等の警察官らに違反車両であることを知らせ(これらの作動は,当該車両が二番目の検出器,すなわち前記B線を遮ると同時に行われる。),右報知音が聞えたならば,監視係が直ちに違反車両の車種,登録番号等その特徴を確認してヘッドセットのマイクロホンにより記録係,停止係に連絡し,記録係は測定部本体から打ち出される印字記録紙によって設定速度以上であるかどうかを確かめた後停止係に停車させるよう求め,停止係が当該車両を停止させるという手順によること(なお,右記録紙は記録係によって切り離された上,当該車両の車種,登録番号等を記入した速度測定記録書に貼付して保存されている。),

3. 本件速度測定機は,速度測定区間を走行する時間を直接に水晶発振器を基準として計測し,それに基づいて時速を電子計算するものであって,その精度は時計検査協会の検査によって保証されているものであるが,使用に際しては測定部本体の校正スイッチを操作して時間計測,計算,表示,印示等の各回路が正常であるかどうかを確認することができ,右スイッチを下に倒して38,75,112の三つの数値が数字表示管に表示され,且つ同一数値が印字された記録紙が打ち出された時は,機械は正常に作動していること,

4. 連続して走行して来る車両の速度を本件速度測定機によって測定する場合,先行車の後輪と後続車の前輪との間隔が7メートル以下の場合(すなわち,7メートルの速度測定区間内に2台の車両が同時に存在するような場合)には,先行車の速度は測定できるが,後続車の測定は不可能であり,また右区間内で追抜きが行われた時は,追い抜かれた車両よりも速く,追い抜いた車両よりも遅い速度が表示され,さらに,先行車が違反車両である時,後続車が約1秒間(正しくは0.8ないし0.9秒である。)の印字時間(先行車が二番目の検出器,すなわち前記B線を遮ると同時に測定と計算を行い,結果を数字表示管に表示し,プリンターがその速度を記録紙に打ち出すまでに要する時間)内に速度測定区間に進入すると,本件速度測定機は次の速度測定準備が完了していないために後続車の速度測定は不能であって,そのための作動を起こすようなことは全くなく,もとより記録紙を打ち出すようなことはあり得ないこと,

5. 本件速度測定機は,本件取締りの日をはさんで,昭和56年3月6日と同年9月3日の2回にわたり,日本無線株式会社横浜工場品質管理課において測定精度の点検を受け,測定精度範囲23ないし199キロメートル毎時において,キロメートル毎時の測定精度を有し,正常な機能及び動作を保持していることが確認されていること,

6. 本件当日速度違反取締りに従事した警察官らは,取締りに先立って,本件現場に本件速度測定機を方式どおりに正しく設置し,取締りの事前事後には前記のような校正スイッチを操作して機能に異常がなく正常に作動することを確認しており,被告人車の速度測定に際しても,本件速度測定機の操作を間違えたり,速度測定記録書の記載を誤り,あるいは測定部本体から打ち出された記録紙の貼り違えをしたような形跡は全くないこと,

7. 本件取締りの対象となった車両は,被告人車を除いてその前後に合計21台あったが,測定の結果について異議を述べた者はなく,被告人自身も本件取締りの際には83キロメートル毎時という測定結果を認めて争わず,交通事件原票下欄の「私が上記違反をしたことは相違ありません。」旨不動文字で印刷された供述書に署名指印し,担当の山口浩治巡査に対して信号が青で道路が空いていたので,つい出してしまった等と弁解したこと,

が認められる。

ところで,本件速度測定機による車両の速度測定は,光学的,電気的原理に基づく機械的方法によって行われるものであるから,右認定のように,本件取締り当時においては,機械そのものに故障がなくて正常に作動しており,その精度も確認されているほか,警察官らが操作上の誤りを犯した事実も認められない以上,その測定結果は十分に信用できるものであって,証明力は極めて高いといわなければならない。

所論は,本件取締りに際し監視係をした原審証人佐久間一哲の証言に依拠して本件速度測定機付近での被告人車と先行車との車間距離は約20メートルであったことを前提とし,もし被告人車の時速が83キロメートルもあったとすれば,秒速は23.05メートルになるから,前記のような本件速度測定機の印字時間(約1秒),A線とB線との間の距離(7メートル)を考慮すると,先行車がB線を遮った後右印字時間内に被告人車がA線を遮ったことになるのであって,そうだとすると本件速度測定機によっては被告人車の速度を測定することは不能なはずであるから,時速83キロメートルという数値は信用できない旨主張するのであるが,前記のように,先行車が違反車両である時は,後続車が印字時間内に速度測定区間に進入しても本件速度測定機はその速度測定のための作動を全く開始せず,もとより後続車の速度に関する何らかの数値を記録紙に打ち出す可能性もないのであって,かえって本件速度測定機が被告人車の時速を83キロメートルと記録紙に打ち出したことは,機械の故障等の特段の事情の認められない本件においては,先行車と被告人車との車間距離が連続して速度測定をするのに支障のない程度に保持されていたことを意味するとみて差支えないのである。所論の指摘する佐久間一哲の原審証言は,高速で走行する車両間の距離を目測したものであるから必ずしも正確ではなく,事柄の性質上相当程度の幅のあることを免れないものであり(現に,被告人車と先行車の車間距離は40メートル以上あったと見得る証拠もあることは,原判決がその「弁護人の主張に対する判断」の項の二,3,(二)(3)に説示するとおりである。),右所論はその前提において失当であって採るを得ないものである。

次に所論は,時速81.8キロメートルで走行する普通乗用自動車が,スリップ痕を残さず,横揺れ無しの状態で停止するには,通常120ないし130メートルの距離を要するとする先例のあることを前提として,被告人車は急ブレーキはかけなかったのに,B線から約63メートル進行した地点で既に止まる位の速度になっていたのであるから,時速83キロメートルもの速度で走行していたはずはないというが,関係証拠によると,被告人車はB線から約123メートル進行した地点で停止したものであるところ,原審証人山口浩治の供述する「止まる位の速度」になった地点やその程度は必ずしも明確ではないのみならず,当審において取り調べた景山克三作成の被告人車に関する昭和58年5月10日付「加速・ブレーキ試験報告書」によると,スリップ痕を残さず鋭いブレーキ音も出さないで,なるべく短い距離で停止するようにブレーキをかけた場合,時速83キロメートルで走行する被告人車(トヨタ・ハイエース)が停止するに要する距離は61.4ないし63.7メートルであることが認められるから,所論のような前提をとったとしても,被告人車が時速83キロメートルで走行したと認定する妨げとなるものではなく,前記測定結果の証明力を左右するものではないのであって,右所論も採用できない。

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